赤坂で。
2010年 05月 11日
男性は水割りを注文している。常連のようだが、ママとの会話はですます調だ。ママは間続きの自宅台所とカウンターの中を行き来し、飼い犬に何度も声をかける。ふたりは連休にどこに行ったかを話しており、骨董市の話題で静かに盛り上がっていた。店内の古い本棚には美術や骨董の本ばかり並んでいる。背表紙は茶ばんで建物同様に古い。店奥の窓が開いており風が吹き抜けていく。その日は木綿の着物で軽装だったけど初夏のような天気だったから、抜けて行く風がとても心地よかった。やかんがしゅんしゅん鳴る音が響いて、しばらくして「ハイどうぞ」と珈琲が出てきた。カウンターからみりん干しの匂いが漂う。男性のつまみらしい。
この店はかつて小料理屋だったけど、ママはもう年だからと夜の商売から喫茶室に商売替えした。男性は先輩編集者に連れられてその小料理屋に出入りしており、先輩が定年で引退した後は今は喫茶室になったその店にひとりで通っている。そんなかつての名残のお客さんには注文が入れば水割りやつまみになりそうなものを出している・・・なんて、勝手に物語をこしらえながら珈琲をすする。空想モードにスイッチが入るような店なのだ。わたしが店を出るのと入れ替わりに、新しいお客さんが「ホットココアをお願い」と言い言い入ってきて鞄を置いた。この人はカウンターの男性よりは若そうだ。そしてやはり一般の勤め人なたたずまいではない。建築事務所とかデザイン事務所で働いていそうな雰囲気。
赤坂のど真ん中で、天然の風がわたっていく静かな喫茶室。興味わいたからまた行ってみよう。
(納品だけだしと油断してカメラを持たずに出かけてしまったので、携帯カメラでぱしゃり)