フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


by naomu-cyo
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書籍のお仕事

 大学4年時に、最終面接まで残っていたのが写真スタジオと編集プロダクションで、どちらも興味の範疇だし、万が一どちらかから先に内定をもらったらそっちの世界に進んでみようと思っていた。結果、写真スタジオから先に内定をもらったので、プロダクションのほうは最終面接を待たずに断りの電話を入れた。もしプロダクションから先に内定をもらっていたら、カメラマンに発注をする側だったんだよなあなんて時々思い出して楽しくなる。きっと今と似て非なる日々だったと思う。

 スタジオの最終面接で当時の社長から「どんな仕事をしたいか」と問われた。映画のスチールを撮りたい、フォトエッセイに興味がある(アラーキーの「東京日和」の影響をもろに受けていた)、そして本に関わる仕事をしたい、と答えた。写真界の現状を熟知している彼からは、「それじゃ食えないよ」などと言われたのだが、まあどうにかこうにかカメラマンの仲間入りをし、今にいたっている。

 出版社をいくつか受けたし、学習参考書を出す出版社で原稿書きのバイトもしていたから、書籍にはもともと思い入れがある。写真に興味をもつよりも早く、本と懇ろだった。最近、撮影で関わった書籍が発売になった。初のビジネス本でのビジュアル撮影で、「がんばる人ほど見落としている『気づかい』の極意」(美崎栄一郎、フォレスト出版)。表紙、中面の写真も全て撮影させていただいた。

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 編集の坂口氏とは彼が以前勤めていた出版社のお仕事で面識があったし、著者の美崎さんとは随分以前にイベントでお逢いしその後講演記録を撮影させていただいたことがあり、加えてデザインのTYPE FACEさんとは柳亭左龍師匠の御本「使ってみたいイキでイナセな江戸ことば」(小学館)でご一緒した。それぞれ別々に出逢った方たちと今回タッグを組み、おもしろくやらせていただいた。多謝!

 ビジネス本で一体どんな写真を中面に使うんだろうと打ち合わせに行ってみたら、ビジネスシーンのあれこれを撮るというもので、見開きや片面いっぱいに写真を使うことに。大きく使っていただくのはとても嬉しい。説明的なビジュアルではなく、空気感を重視したものが欲しいとのことだった。

 撮影当日、出版社の営業マンたちをモデルにしてシーンの再現に努める。こういう撮影をわたしは勝手に「小芝居系撮影」と読んで毎回楽しくやらせていただいているのだが、今回もまた楽しくて、「ハイ、そこで上司を笑顔で見つめて」とか「ちょっと緊張感をにじませてみましょう」などなど演出もどきなことをする。これこれこういう心持ちで、と伝えると、ファインダーの中の絵がびっくりするくらい変化して生き生きしてくるからたまらない。

 瞬間を封じ込めると動きが失われるわけだが、死んだ写真にしたくないといつも思う。今まさに打ち合わせが繰り広げられているかのような錯覚を読む側に届けたいし、撮影したビジネスシーンにリアリティーを持たせたい。二次元なんだけど三次元を匂わせたい。そういうことを意識しながら撮らせていただいた。もちろん、ノリノリで協力していただいた社員さんたちの見事な役者ぶりあってこそだ。

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 数年前から書籍関係の仕事が徐々に増えている。表紙用に作品を貸し出したり、丸ごと撮影だったり、部分的にだったりいろいろな形で関わらせてもらったが、並べてみたらそれなりにまとまった冊数になった。並べそびれたものも数冊あるが、実にさまざまなジャンルの本があるのね、と改めて思う。電子書籍に対してうんぬん言うつもりは毛頭ないけれど、やっぱりわたしは本という存在そのものが好きだ。本の重さも手触りもページをめくる行為も、本ならではの仕様も、丸ごと深く愛している。そんな愛の対象と関われて嬉しいことこのうえない。
Commented by きもの水流/とら  at 2012-07-29 18:44 x
電子書籍には爪の先ほどの興味もない分際なのでそれについてアレコレ申し述べる資格をもたない私ですが、紙の本はまさに一から十まで大好きです。むーちょさんがおっしゃるようにまさに丸ごと、あのインクの匂い、紙の匂い、写真、文字・・一気呵成に読む、味わいながらちょびちょびと読む・・、しおりをはさんで次の章は午后からのお愉しみ・・としたり、、ときには何かを隠したり???(笑) 
Commented by naomu-cyo at 2012-07-31 08:40
きもの水流/とらさん・・・いったん本そのものに魅了されてしまうと、なかなか電子書籍というわけにはいきませんよね。簡便さとか場所をとらないとかそういうことを本に求めていた訳じゃないですし・・・。装丁もふくめて丸ごとその作品の世界観だと思うと、わたしも電子書籍にはのれませんー!
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by naomu-cyo | 2012-07-24 13:32 | お仕事 | Comments(2)