フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


by naomu-cyo
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「前衛書道家 椎木剛個展」、一緒に書こうワークショップにて。

 わたしの仕事場「武藤屋」で27日から始まった「前衛書道家 椎木剛個展」。今日は一緒に書こうのワークショップ。横浜での撮影が終わって戻ってみると、静かなのに白熱したワークショップが展開されていた。参加した人たちが夢中に書に取り組み質問やらアドバイスやらが飛び交う様子が、Macに向かって作業をしているわたしのところにも伝わってくる。予定時間を越えても白熱状態は続き、わたしも作業が済んだので、話に混じったり写真を撮ったりした。

 「前衛書道家 椎木剛個展」、一緒に書こうワークショップにて。_a0025490_0495321.jpg
 いつの間にか先生へのリクエスト大会に移行し、皆さんご自分の名前を書いてもらったり縁起のいい言葉を書いてもらったり。わたしもちゃっかり便乗してふたつリクエスト。「猫」と「ぱち」と書いてもらった。ふたつの書を受け取って、在りし日のぱちの輪郭をすっかり丸ごと体現したかのようなそれらの輪郭を見て、ぶわっと涙がこみ上げた。椎木先生はぱちのことを全く知らないのに、ちゃんとそこにぱちが表れていた。不思議だ。以心伝心か。わたしが心の中にとってあるぱちの姿が先生に伝わったんだろうか。額装して遺影のそばに飾らせてもらおう。

 「前衛書道家 椎木剛個展」、一緒に書こうワークショップにて。_a0025490_0464410.jpg
 明日の一緒に撮ろうのワークショップに向けて、撮影の背景用に使う白いペーパーに、年賀状に合いそうな言葉を書いてもらうことに。先生と、夕方仕事を終えてやってきた同業の友・Mちゃんと、先生の娘さんでわたしの友人UさんはLINEで、なんの言葉がふさわしいかあれこれアイデアを出し合った。言葉がひとつ挙がるたびに先生は、その言葉に使われている漢字の本来の意味を説明し、書き様のことを話し、門外漢のわたしたちが理解しやすいようにこまやかに言葉を尽くしてくださった。学生時代、漢文の授業で漢和辞典片手に言葉の意味を探ったことを懐かしく思い出す。語源よりもさらに深入りして字源を辿ったのだった。

 Uさんが提案したある語を先生が手習いし始めた。どうやらこの言葉でいくことになりそう。何枚も何枚もその語を書きならし、よしという感じで大きな筆を取り出してボウルに染料を注ぎ、幅2.7メートルの用紙の上に足を踏ん張り筆をおろす。それはもう全身運動なのだった。身体全部が筆になったかのようだった。書き終わった瞬間先生はつんのめるようにして足の勢いを止めていらした。身体の動きがのった筆の輪郭はとてもとても力強かった。書かれた言葉の通り今にも動き出しそうだった。

 「前衛書道家 椎木剛個展」、一緒に書こうワークショップにて。_a0025490_0465651.jpg
 先生は話の中で殻を破ることについて何度か触れていらした。殻を破る、前進する。それらが常に脳裏にあるようだった。今の自分を超えてゆくこと。撮影で噺家の方々のお話を伺う機会が多いが、師匠方にも椎木先生にも同じ空気を感じる。想いというか言葉というか行動というか、それらに圧がみなぎっている。伝統というのは新しいものを創造してゆかないと繋いでゆけない、というようなことを椎木先生は何度もおっしゃった。フォトグラファーである武藤奈緒美に伝統はないけれど、わたしがわたしを繋いでゆくためには、いつまでも古びない写真を撮ってゆくためには、殻を破ってゆかないといけないのだ。

 ぱちが逝って霞がかかったような脳内に一閃、稲妻が走るようだった。まだしばらく霞は薄れそうにないのだけれど、この一閃を忘れちゃいけない。
 
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by naomu-cyo | 2015-11-29 00:48 | フォトダイアリー | Comments(0)