ぱっとした天気にほとんど恵まれないうちに桜が咲いて散ってった。空の都合と桜の都合とがいまひとつそろわなかった今年の春。例年同様花見の宴はないけれど、道すがらいい咲きっぷりの樹に出逢えば写真を撮り、うろおぼえの西行の和歌など思い浮かべながらしばしたたずむ成り行き花見。今年の桜時分は殊更日々に埋没して過ぎた。
仕事が慌ただしいと時間がまるで読めなくなるから、他者を巻き込んでの予定が立てにくい。そうなるとおのずとひとりで過ごす時間が長くなる。始終何かしら考え事をしているけれど、一体何を考えているのか憶えてない。きっとそばにいてくれるであろうぱちに心の中で話しかけていることもある。毎日帰りは遅い。撮影後に事務所でデスクワークをしていることが大半だけど、合間をみて寄席やライブ、友人の個展に出かける。騒々しいわたしだけれど、ひとりで過ごすときはさすがに静かだ。そうか、静かな春なのだ。
先週と今週の金曜日、3年目の案件で中高一貫女子校のパンフレット撮影をしてきた。おや、今年のわたしはなんか違うぞ。生徒たちとラフにコミュニケーションをとっているじゃあないの。今思えば過去2年は考えすぎていたのだろう、よそゆきな感じでしか接せてなかった。今年は自分の娘でもおかしくない年頃の彼女らに自然に声をかけていた。するとあら不思議、彼女らが気安く声をかけてくる。となると話は早くて、撮りたい写真にあっという間に辿り着ける。誰を撮ってもいくつの人を撮っても、要は同じことなのだ。カリスマ性があるわけでも著名でもないわたしが撮るのだから、親しみを感じてもらえるような現場を作る。それができれば「笑顔で」ってわざわざ注文しなくても、相手はおのずとふだんの笑顔を見せてくれる。
そんなわけで3年目にしてようやく手応えを感じることができた。取り立てて別嬪さんじゃなくたって、ふだんの笑顔は誰だって魅力的なのだ。そんな笑顔とたくさん遭遇した。
先月末に区の健診を受けたら2年前より3キロ増量。現在ダイエット中だけれども、今日は手応え祝いに帰りしな近所のカフェでケーキを食べた。久しぶりだからなのか、味わうことに意識がいった。
撮影中の動とひとりで過ごす静。今日の静は甘い静だった。