麦わら帽子の季節
2016年 06月 12日
「うかたま」vol.43(農文協)で麦わら特集の撮影を担当。春まだ浅きの3月上旬、埼玉は春日部の田中帽子店の工房を訪ねた。
夏に向けた出荷のため大忙しの時期で、工房内のあちこちに麦わらタワーがいくつも出来上がっていた。ものづくりの現場に行くと心が躍る。手仕事の現場にかぎったことなのかと思いきやさにあらず。去年ボーイング社の尾翼を製造する三菱重工の工場や衛生陶器を製造するTOTOの小倉工場を訪ねたときにも大いにわくわくした。
規模の大小、製品の大小に関わらず、ものが生まれる過程が自分はむしょうに好きなのだと思う。加えて、材料から製品になる過程にだけ興味があるわけではなく、なぜそこにその産業が興ったのかも大いに気になる点で、春日部の地で麦わら帽子がさかんに作られるようになった背景には、日光街道を行き来する職人や商人の影響があるだろうとの話だった。銭を持たない絵師が宿代の代わりに衝立に雀を五羽描き、それが呼び物になって宿が大いに繁盛する、落語の「抜け雀」みたいなことがこの地でもあったのかもしれない。宿代の代わりに自らの技術を置いてゆく、というようなことが。
田中帽子店の会長自らのミシンさばきで、麦わら帽子の形がまたたくまに出来上がっていくのを間近で撮影した。ミシンで立体が生み出させるのが不思議でならなかった。手仕事の現場でよく耳にする職人の高齢化の話にも及んだ。帽子作家をめざして修行したいとやってくる人もあるけれど、そうではなくここで長く職人として働いてくれる人を雇いたい、といった話から、どこの現場でも人材育成が切実な問題なのだと思った。
取材が終わる頃にはすっかり麦わら帽子が欲しくなっていた。去年の夏に岡山の麦わらを買っちゃったしなあ・・・なんて思っていた矢先に、青山にあるギャラリーitonosakiでのS+KiKiの展示で、材料に和紙を使った素敵な夏の帽子を見つけた。去年の麦わらとは違った素材と形だし、これはこれだよね、といただいてきた。その帽子の出番がいよいよやってくる。田中さんとこの麦わらは、父の日のプレゼントに。