この日記、慌ただしさにかまけてほったらかしているうちに、今年も残りひと月に突入。最後の月の最初の日を彦根の料亭旅館
「やす井」で迎えた。
「武藤さん歴史好きよね。もってこいな案件なんだけど、空いてます?」と、ふた月に一度安曇野取材でご一緒している編集さんから連絡をいただいたのは10月末だったろうか。スケジュールを確認し「空いてます!」と即座に返事。今回のネタが来年の大河ドラマに絡ませた彦根藩井伊家ゆかりのエリアを巡る旅取材であることに狂喜乱舞した。去年、取材を打診されたもののスケジュールが合わず泣く泣く見送った
彦根城行き、今回の訪問先にもちろん入っていて、あのときの悔しさが思いもよらず晴らされることにもなった。
かつて近江と呼ばれたそのエリアには、信長の安土城、秀吉の長浜城、三成の佐和山城もあったわけで、歴史の舞台としての興味もさることながら、梨木香歩さんの
「家守綺譚」を読んでからというもの、琵琶湖そのものにぐんと興味が湧いていた。もちろん仕事で出かけることなので行きたいところを軒並み訪れられるわけではないが、そのエリアにいるというだけで十分嬉しいことなのだ。いくらでも想像で補える。
観光課の方々は、京都に比べるとどうしても印象が薄い、いいところはたくさんあるのだが、と話していらした。ところがわたしにとっては滋賀県・・・いや、やはりここは「近江」と言いたい・・・ってそんなに印象が薄くない。彦根城、井伊の赤備え、安土城に長浜城に佐和山城。志村ふくみ、滋賀喜織物、近江上布。琵琶湖、竹生島、弁天様。白洲正子「かくれ里」、梨木香歩「家守綺譚」。茜さす・・・の蒲生野。これらは取材前の知識。行ってみたら、甲賀忍者に比叡山延暦寺、大津絵に信楽焼、近江商人、近江真綿もそういえば・・・という次第になった。
京都のようなばりばりの観光地でないせいか、行き会う人みなおっとりしている。街中のスピードも心なしか緩やか。視界を圧迫するような景色は皆無で、抜けがいい。山はどこもかしこも紅葉して、琵琶湖を埋めてできた農地はどこまでも真っ平らに広がっている。見通しのいい明るい土地で、観光エリアにしっかり生活が感じられる。思わずここで生活する自分を想像してしまうほど、心を寄せられる。これは地味だとかいうことではないように思う。我が故郷のほうがよっぽど地味だ・・・。
今回はプレスツアーというくくりで、ほかの媒体さんと道中ご一緒した。至れり尽くせりなのはそういう性質の旅だったからだか、それを除いたとしても帰京するのが名残惜しくてたまらなかった。両親を連れてきたいなあと真っ先に思った。行く先々紅葉が見事だったが、桜の樹もあちこちにあった。きっと春の近江も見事だろう。「家守綺譚」にちなんだ文学旅も試みたいところだ・・・。きものだ帯だと散財している場合ではないな、こりゃ。来年の自分、スイッチ切り替えなきゃだ・・・。