1月半ばのとある日、
池袋演芸場へ。1月いっぱい正月興行の寄席は、通常興行よりも華やかで登場する噺家さんの数も多く盛りだくさん。下席夜の部以外は年中きもの割引(500円引き)のある池袋演芸場にはできるだけきもので出かけたい。新春のめでたさを意識して、赤い縞のきものに梅模様の帯を合わせた。
このきものと帯との出逢いはこんなだ。
いくつかのきものエッセイを立て続けに読んだのち、美しい織物が今後なかなか手に入らなくなるのでは・・・と突如不安に駆られ訪れた
銀座きもの青木で、浦野理一さんの赤い縞の紬に出逢った。もういい年だし赤っていうのも・・・と躊躇しながらも、何枚か気になる紬を試着した中でこれがいちばん自分に似合っていて、そして大人の赤というものがあることを知った。自然の摂理、これから二度と若くなることはなく、ひたひたと老いに向かうその過程に添ってくれる赤があるのだ。
寸法が大きかったので悉皆屋いちまつさんに持ち込み、洗い張りしてわたしの寸法に仕立て直してもらった。当時まだご存命でいらしたおかみさんが「あらぁー、いい赤ねえ!素敵よこれ。あなたに似合うわよ」と嬉しがっていらした顔が思い出される。いざ着付けてみると、これがなんとまあ着やすい。ぴたっぴたっと身体に吸い付くようになじむ。着心地も抜群でおさまりがよく、着姿も野暮ったくならない。小津映画の衣装を担っていた浦野理一という人がたくさんの女性たちに支持される所以を身を以て知った。
帯は着付けを覚えて間もない頃にネットショップで見つけた。絶妙なかわいらしさと色合いに惹かれ注文すると、病気療養中で更新も滞りがちなのだが、このたびはありがとうございます、着付けたときに見えない場所にだけれど染めムラがあるからちょっと割引させていただきますね、と丁重なお返事があった。しかし芯が柔らかくどうにも締めにくいので、これもいちまつさんに持ち込み、洗い張りして芯を替えてもらったところ、とても締めやすくなった。
演芸場では漫才コンビ・ホームランのネタで、勘太郎さんが漫才師になる以前大手芸能事務所・オスカーに所属してモデルをやっていた、というくだりで大笑いしまくっていたところ、勘太郎さんがわたしを指差し、「そこのあなた!そんなに笑って失礼じゃないですか!?」といじってきた。この少し前にオスカー所属のモデル出身俳優の撮影をしており、そんなこともあって笑いやまず、うわー、初めていじられた!などと内心大ウケなのだった。トリは柳家権太楼師匠の「火焔太鼓」。かわるがわるたくさんの真打ちが出てきてそりゃもう豪華で楽しくて、晴れやかなきものとともに幸せな寄席時間が過ぎていった。