フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


by naomu-cyo
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一冊の本が導いたコンサート

 「武藤さん、かこ先生の絵本世代ですよね?」とひとつ年下の編集者から声がかかり、絵本作家かこさとしさんの対談撮影の依頼をいただいた。たしかに子どもの頃かこ先生の絵本を読んだっけなあ・・・と振り返り、では絵本以外の著書はないかと探してみたら、面白そうな一冊「リレートーク 言葉の力人間の力」(佼成出版)を見つけた。かこ先生がどういうきっかけや考えで以て絵本の世界に関わるようになったのか今の子どもを取り巻く環境をどうとらえているか等が対談形式で綴られており、撮影前に読んでおいてよかったと思える本だった。

 ほかに登場するピアニストの舘野泉氏のトークページを読んでいたら、友人から聴いたことのある名前が登場した。日本とフィンランドのハーフでヴァイオリニスト、舘野氏の息子さんで名前はヤンネ。あまりにも聴いたこととあてはまるところが多かったので友人に尋ねてみたところ、まさにヤンネは友人の友人であった。驚いた。

 ふだんクラシックなどまるで聴かないうえに、常識的なこともおそらくわかっておらず、この本で舘野泉というピアニストの存在を知ったほどだが、読み進むうちに彼の演奏が聴いてみたくてたまらなくなった。数日後、件の友人から、ちょうど舘野氏やヤンネが出るコンサートがあり、彼女はそこで受付まわりの手伝いをすることになっている、と知らせがあった。「よかったら聴きにこない?ヤンネが写真を撮ってくれる人を探していたから紹介もしたいし」と誘ってもらい、全くの無知な状態で「フィンランド独立100周年記念Duo125室内楽コンサート」に足を運んだ。

一冊の本が導いたコンサート_a0025490_03171170.jpg
 クラシックのコンサートだし・・・ってんで、ハレ感のある梅柄のきものに光沢のある帯を締めてわたしなりにかしこまり、横浜は青葉区にあるフィリアホールへと。行ってみたら客席はとてもフランクな雰囲気で、気合いを入れてきた自分がやや空回り。音楽の授業で聴いたモーツアルトとかベートーベンとかショパンとかバッハとか・・・そういうものが乏しいながらもわたしのクラシックイメージだったけれど、そういう思い込みは早々にがらがらと崩れ去った。曲の雰囲気とかメロディーラインがまるで違うのだ。ドラマチックなこしらえではなく、多くを語らぬが何か深いものを秘めている・・・うまく言えないが、なんともこう、行ったことはないなりにフィンランドという国の風土に想いを馳せたくなるような、そんな音楽だと感じた。

 舘野氏は病気の後遺症で右半身に麻痺が残り、左手だけで演奏されているのだが、5本の指だけで演奏されているとはとうてい思えない音の連なりや重なり具合に圧倒された。5本の指が生む以上に音数があるように感じられる。聴くうちにこれが片手による演奏であるかどうかなどまるで気にならなくなった。

 寝不足なところに、心地いい音が繰り広げられて、すっかり心ほどけて緩み切ってしまい、おしまいのほうですーっと眠ってしまった。わからなくても心地よくなるもの・・・お能を観たときもそんな感じだ。

 別の目的があって出逢った一冊の本がコンサートへと導いてくれた。本を読むことはとても内々の行為であるけれど、時として外との接点をもたらすことがある。今回は自分でも意外な方向に現実が開けた。


Commented by team-osubachi2 at 2017-03-01 14:59
へええ〜〜、ご縁ですねえ。舘野泉さん、テレビのドキュメンタリーやニュースの一部特集などで二度三度拝見していました。私もいつか聴いてみたいものです。
コンサートの場に、でも、このちょっぴりよそゆきなスタイル、きっと見る人の目には「いいなあ」って映ったんじゃないですかね♡
Commented by naomu-cyo at 2017-03-02 02:52
team-osubachi2さん・・・へええ〜!でしょ?(笑)びっくりでした。テレビを見ない生活に慣れてしまって、おかげで話題性のあることとかにものすごく疎くなっているんですが、タイミングが合うときは合うもんなんだなあと思って。縁ってやつですね。
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by naomu-cyo | 2017-02-28 03:19 | 読書 | Comments(2)