着付け師の
小林布美子先生は出逢った当初より「むーちょ、小紋着なさいよ。女っぷりが上がるわよー!」としきりにおっしゃっていたのだが、この「小紋=女っぷり上がる」説は真理かもしれない・・・的出来事が本日我が身に訪れた。ナンパをされたのである。
それは16時頃であった。目黒にある喜多六平太記念能楽堂で
「狂言ざざん座」の公演を観終えて、わたしは大満足で日傘を傾けつつ駅までの道を急いでいた。この日のきものは、お友だちでもある
初屋で購入した型染めの単小紋。海の中をイメージしたような絵柄なので、今着なければいつ着ると思い、本日着用に及んだ。すたすた歩いていると、同じく狂言鑑賞帰りとおぼしき若者ふたりが立ち止まって、一方が声をかけてきた。そのものずばり、「遊びましょうよ」と。こうも言った。「大学生とかですか?」。これにはさすがに冗談だろと思ったので、「からかってるー?んなわけないじゃん!」と笑って返答。しかし彼はまだ言った。「きもの美人のあなたと遊びたい」と。生まれてこの方、真っ向から「ブス」と言われたことはあったが、美人だなどと言われたことはいっぺんたりともない。なので、大人の女をなめんなよモードになったが、からかいだとしても言われてイヤではない言葉なのであった・・・不意をつかれて動揺したんだな、自分。しかし、「いくつだと思ってるのー?」とにこやかに応対してその場を去った。何も言わなかった連れに対し、「若く見えるけどな」と彼が言うのを背中越しに聴いた。相変わらず連れは何も言わなかったが・・・。
去年末に明るみで少年に間違われたわたしである。もう、「くるしゅうない好き勝手に判断するがよい」、な境地である。若く見えたいのではなく若々しくいたいとは日々思っている。横顔の耳の下から顎にかけてのラインが乱れないよう気に掛けるとか姿勢を気にするとか口元がへの字にならないよう気をつけるとか、心がけるのはその程度で、大学生というのは冗談にしても実年齢よりは若く見え、ナンパしてきたのがかわりものな若者だったにしても声かけてみるかという血迷った行動を起こさせたのは何に起因するかを考えてみて、はたと気付いた。小紋を着ていたからではなかろうか。小林先生おっしゃるところの「女っぷりが上がる」、つまり小紋マジックのなせる技ではなかろうかという結果が出た。チーン。ここまで辿り着いて思った。そうだ、小紋着よう!と。もっと小紋着よう!紬とか木綿とかのかたい素材のものばかりではなく、柔らかい線を描く小紋を、もっと積極的に着よう!・・・完全にあの若者に踊らされた。
彼のもとを歩み去った後、笑いをこらえながら、「いやー、またネタが増えちゃったよ」と思った自分は、やはりどこまでも笑ってもらいたいのだ。「何言ってんだろ、武藤さん。いい歳こいて」とヒソヒソ陰で言われるのではなく、大声で笑い転げて欲しいのである。この後、妙蓮寺の長平庵へきもの仲間である
朋百香さんの「京都タロット展」を見に出かけたのだが、早速この珍事を話したところ、麗人・朋百香さんはうけまくってくれた。たびたび話すうちに言葉に無駄がなくなって、練れたネタになっていくことだろう。しかしあまりそちこちで吹聴しまくると、「武藤さん、よほど嬉しかったのねえ・・・」と陰でヒソヒソやられるかもしれない。くるしゅうない好き勝手に判断するがよい、であるよ。