フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


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「チルチンびと」最新号は金沢特集

 発売中の「チルチンびと」は金沢特集。この中で金沢の人や暮らし、住まいを取り上げ、登場する12人の女性のうち5人の撮影を担当した。頃は12月半ば、北陸の古都に師走の慌ただしさは感じられず、しずしずと新年を迎える気配が漂っていた。

 取材チームは反対に慌ただしい。一泊二日で5人の女性をみっちり取材しなければならないので、スケジュールは細かい。宝生流の女性能楽師、古民家でカフェやイベント運営をしている女性、女性クリエイター集団のリーダー、茶屋の芸妓さん、イベントプランナー・・・バリエーションに富んでいる。取材相手の予定に合わせてこっちも行ったり来たり。事前に打ち合わせはしてあるものの、出たとこ勝負、その場その場で判断して撮ってゆくのみ。まあ、慌ただしい撮影には慣れているので、集中力さえ切らさなければ大丈夫でしょう。

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 「武藤さん、お能を撮影したことはありますか?」と最初に尋ねられた。キッズ伝統芸能体験の現場で、プロの能楽師や狂言師の公演を撮ったことがあるのが今回とても役に立った。経験というのはしておけばこうして何かに繋がってゆくものなのだなあと感慨深いものがあった。また、芸妓さんの舞いの撮影、古民家での茶会の撮影も、芸事の知識はほとんどないながらも、去夏に日本舞踊を体験したことや自分自身がきものの着手であることが大いに役立った。経験は身銭を切ってでもするべし也。いや、身銭を切ったからこそ、こうして仕事に繋がる(=銭を生む)のかもしれない。経験のため、と思って身銭を切ったわけではないけれど、自分の興味と今回の特集内容がたまたま重なった。

 女性能楽師の言葉「型をやることで男女を越えられる」が印象に残った。この能楽の「型」というものはおそらく、男女どころか年齢も場所も時空も生死も越えるものなのだろうと、ようやく徐々にお能を面白く感じられるようになってきて気付く。また、「習い事をする、人に教わる、という経験は人を謙虚にしますね」というお話は、どなたからだったか・・・伺って、はっとするものがあった。お逢いする方お逢いする方、謙虚な女性ばかりだった。自分がメインで取り上げられることを受け入れながらも、周りをそれとなく巻き込み立てようとする。それがとても自然なのだ。周りにいる人たちもそんな感じで、お互いさまな気風が感じられて、こちらまで柔らかい気持ちになった。いいなあ、金沢の女性たち。強そうなんだけどしなやかで。個性的なんだけど柔軟で。協調性に欠けるわたしはそこを見習わねばならない。

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 その謙虚さとともに女性たちに感じたのが、重心の安定感。たとえるなら、身体の重心がしっかと地べたに垂直に結びついているような感じとでも言おうか。タクシーでの移動中、窓の外の金沢城の長い城壁を眺めていたときに、はたと気付く。この地に守られている、守ってくれる、という場に寄せる絶対的な信頼がめいめいの内に自然と育まれているのでは、と。わたし自身東京暮らしも24年目だが、いまだに何かあらば故郷に逃げ込もうと思っている節がある。故郷で暮らしたのよりも長くこっちに居ても、絶対的な信頼を東京に寄せきれないせいなのか、足元がふわふわしたまま(それは自分の商売柄やいまだに独り者だからかもしれないが)。東京にいてふだん江戸をこしらえた徳川家を意識することはないけれど、金沢では加賀百万石をこしらえた前田家をたびたび意識する気がしたのは、一泊二日の旅行者目線だからか、単にわたしが歴史好きだからか。あの城壁を眺めたときに、「あ、守られてる」と感じたのはたしかだ。

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by naomu-cyo | 2017-03-27 12:15 | お仕事 | Comments(0)