日々せわしくしていると、「売れっ子だね」とか「儲かってるでしょ」とか頻繁に言われる。そのたびに、「稼働日数の多さと収入は比例しないのです」と真顔で答える、ほんとのことだから。だいいち、カメラマン業界で売れっ子といったら単価がわたしとは雲泥の差、桁が違う。少ない稼働日数で効率よく稼ぐ。もう、世界が違っちゃっているのだ。
以前、アイドル犬のフォトブックの撮影依頼をいただいた。シリーズ第四弾まで制作され、第一弾が何度か増刷になり、第二弾第三弾も一度増刷になった。印税契約だったので増刷のたびに振込があったわけだが、契約時に担当編集者が「単価も安いし部数も少ないんで、増刷になったところで一晩呑んだらなくなっちゃうような金額ですけどもね」と、初の印税契約という響きで浮き足立ちかけているわたしに笑顔で釘を刺した。果たしてその通りであった。
くだんのワンコ、twitterで人気に火が付き、CMや雑誌でも引っ張りだこ。それを見てわたしがフォトブックに関わったことを知る友人が、「むーちょ印税で大儲かりだね・・・とこないだ○○たちと話してたんだよ」と言ってきた。聴くなり即座に「知りもしないでテキトー言うな」と否定し、印税のパーセンテージや金額も披露した。「そんなもんなの!?」と映像仕事をしているその友人。「そんなもんなのよ。ちょっと贅沢な食事したらきれいさっぱりなくなっちゃう金額なのよ。映像とは土台予算もギャラも違うのよ」とわたし。儲かっていると勘違いされたまま、「最近付き合い悪いよね」とかなんとか言われたら大変に心地が悪い。そして、たったひとりの思い込みが誤情報を広めるということも知ったのであった。
この連休中、京都のきもの仲間からの依頼でかの地のきものガールたちを撮影してきた。わたしを紹介するにあたり、売れっ子だとかきもの媒体「七緒」でいつも撮影をしているとか言うので、「売れっ子じゃないって。『七緒』からもいつもお仕事をいただけているわけじゃないのよー」と横から口を挟んだ。信用を担保するためにそういうふうに言ってくれるのは十分理解しているのだが、盛られると分不相応だと思ってどうにも訂正したくなる。謙虚とかそういうんじゃなく。
同世代の売れっ子筆頭に蜷川実花さんがいて、宮原夢画さんがいて、ほかにもそちこちで名前を目にする人がいて、もうこうなると次元が違う方々なのだが、わたしの中ではそういう人が売れっ子であり、無理でもなんでもめざすくらいの気概だけは持って上を見ていたい。あの場所に着いたらどんな風景が見えるんだろうか、と夢想するくらいはしていたい。