フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


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「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」を読んで

 先日亡くなった米原万里さんの作品をたて続けに読んでいる。同じ作家のものを連続して読むとふだんは飽きてくるけど、彼女の作品にはそれを感じない。読んでいると自分の視野を世界へと押し広げてくれるような気がする。文庫本宇宙には収まりきらないスケールを感じるのだ。プラハのソビエト学校で学んだ経験やロシア語の通訳であちこち飛び回った経験が作品の中で大いに呼吸している。

 「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」はソビエト学校時代の友人に逢いに行った話が三話収められている。この「友人に逢う」ことからしてスケールが違う。国境を越え時には政情不安な地域にも足を踏み入れる。

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」を読んで_a0025490_345983.jpg 三話中の「白い都のヤスミンカ」は最も興味を感じた作品。1990年代初頭に勃発したユーゴの内戦のさなか、米原さんはボスニア・ムスリムである友人ヤスミンカに逢いにベオグラードへと向かう。この内戦を描いた映画は今まで何本か観たが、あまりに多くの戦死者と難民とレイプ被害者を出した争いの発端がなんなのかいまいちつかめないでいた。今回彼女の作品を読んでその背景がおぼろげながらつかめた気がした、心情レベルでは理解できないまでも。

 ソビエト学校には50ヵ国にわたる生徒が通っていたという。おのおのが祖国を説明する課題があり、みな自国にいい印象をもってもらいたいと懸命になって発表したんだそうだ。自分の国を愛しほかの人の祖国を愛する気持ちを知る、自然な平和教育。

 「国家」「国境」「民族」「宗教」「言語」・・・自分自身これらのことを通常意識しないで暮らしている。他国をおとしめて自国を称賛するような愛国心はいかがなものかと思うけど、無関心なのもおそろしい。彼女の作品は体験を通して得た考えや感想をあくまでいち日本人の立場で伝えているので親近感をもって受け止められた。

 時はまさにワールドカップの最中。血の流れない戦いを通して国家や民族のことを考えてみるいい機会なのかもしれない。初登場にして最後の出場となるセルビア・モンテネグロはユーゴの内紛から10数年でワールドカップの切符をつかみ、今度はモンテネグロが独立する。いまだに動きは止まらない。血が流れないことを心から願うのみ。

http://www.mu-cyo.com/
Commented by BlueInTheFace at 2006-06-17 05:26
むーちょさんが紹介してくれた本の中で、この本ほど興味深いものはありません。久々に、狂おしく読んでみたい本に出会いました。林檎の樹もいい本だったけど。これも必ず読みます。
Commented by naomu-cyo at 2006-06-17 09:09
ミツさん・・・この本を読んで、前に映画「ノーマンズランド」を観たときに買ったパンフレットを引っ張り出しました。米原さんの作品とこのパンフレットを読み比べ、ユーゴスラビアという国が消滅してしまったことを心から残念に思いました。未見ながらユーゴのサッカーはさぞかし魅力的だったんだろうなあ・・・と思いましたよ。
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-17 10:09
島国日本に生まれ育った自分の”井の中の蛙”ぶりを感じさせてくれますね。今更ながら惜しい人でした。「パンツの面目 ふんどしの沽券」をまもなく読み終わります。
Commented by naomu-cyo at 2006-06-17 18:00
saheiziさん・・・その本、まだみつけてない作品です。わたしは「人間のオスは飼わないの?」を読んでます。猫好きにはたまらない作品です。ほんとにもっと書いていて欲しかったです。
Commented by シロガネーゼ at 2006-06-17 22:22 x
久々にお邪魔します。米原さんの唯一の小説「オリガ・モリソヴナの反語法」も面白かったっす。このタイトルは各方面から不評だったらしいけど、私はすごく想像力をかきたてるうまいタイトルのつけ方だなと思いました。彼女は体験したこと自体が非凡だけど、それをさらに上質なエンターテイメントに仕上げる力がすごい!
Commented by naomu-cyo at 2006-06-19 01:24
シロガネーゼさん・・・わたしは「オリガ・モリソヴナの反語法」から米原さん作品に入りました。言い得て妙なタイトルでしたよね。なんだろう、ってひきずりこまれましたもん。
 そう、彼女は体験をだらだら書き綴ったわけではなく、緩急のある展開で、読み手の心を奪ってくれましたね。ほんとに映画を観るごとくにエンターテイメントでした。
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by naomu-cyo | 2006-06-16 09:49 | 読書 | Comments(6)