フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


by naomu-cyo
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人が住まってこそ

 ずっと以前、住宅展示場で撮影の手伝いをしたことがある。その日はたしか展示場が休みで、それで撮影チームが入ったんだった。

 外観を撮って内観を撮って、夜に終了。機材をばらしてモデルハウスを出たとき外は真っ暗で、もちろん人工の街並に人は歩いていなかった。人が住まう家がありながら、人の気配がない。夜の暗さも手伝って、なんとも不気味だったのを憶えている。

 インターネット上にアップされている原発20km圏内の写真を見ていて、あのときの不気味さをなんとはなしに思い起こした。ただ、20km圏内の町たちは地震や津波被害がありつつも生活感がそのまま残った状態だったから、住宅展示場のいかにもこしらえましたといった感じはない。まるで町中の人たち全てが神隠しに遭って忽然と消えてしまったかのような、住まう人と住むところとの繋がりが唐突に断ち切られたとしか思えないような、そんな風景だった。
人が住まってこそ_a0025490_6375416.jpg
 楢葉町の牧場主のコメントを読んだ。「一頭でも生かしてやりたかったけど、もう無理みたいです。次に来るときは野垂れ死にしている牛たちを見るのでしょう。つらいです」・・・久しぶりにおいおい泣いた。昔読んだ「かわいそうなゾウ」を思い出した。わたしが泣いたところで何も変わらない。わたしが叫んだところで何も改善されない。何かを変革できるほどの大きな力を有してやいない。分相応に暮らすいち市民でしかない。

 支持を受けさまざまな決定権を掌握するにいたった立場の人が、どうして命を救うための決定をできないんだろうか。わたしが泣いたって何も変わらないが、決定権を持つ人が「避難させよう」とひと言いえば変わるのに。

 息をするものが住まってこそ、「町」なのだ。

(写真は以前訪れた福島・小名浜の風景)
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by naomu-cyo | 2011-04-22 06:39 | フォトダイアリー | Comments(0)