cafe green gingerと「百年の愚行」と新宮と。
2012年 05月 10日
取材から戻って数日後、冬物をクリーニング屋に出しに行った流れで彼女の店へぷらっと顔を出した。これが愉快な出逢いの幕開けになるとは、そのとき家着にノーブラですっぴんだったわたしには予想だにできなかった。この街に暮らして15年、今まででいちばんこの街を楽しんでいるまさに渦中にいる。
カウンターテーブルの隅に積んであった本の中から「百年の愚行」を選んだのはタイトルに惹かれたからだ。20世紀に世界中あちこちで起きた人間による愚かなる行為を写真ビジュアルで示した本だった。「その本を手に取る人、一年にふたりくらいですよ」とUさん。「タイトルに惹かれたの。『千年の愉楽』って小説が・・・」と言いかけたそばから彼女の「中上健次!」と言う声がかぶった。
そこから新宮話で盛り上がる。カフェの常連のパティシェ氏が新宮出身で、店に来ると新宮の話をたくさんしてくれ、中上健次の話ももちろん出て、それで行ってみたくなってUさんは今年のあたまに新宮を訪れたんだそう。わたしはといえば、いまだ新宮を訪れてないものの行ってみたくてたまらない場所で、知り合いの新宮出身の染色作家さんの帯を今年あたまにとうとう手に入れた。そしてUさんもわたしも中上健次の作品を熱心な読者ほどではないにしても、何作品か読んでいた。
「わたしが仕事でお世話になっている方も毎年熊野の火祭りに参加してるって話してました」と言ってその人の名前を告げると、パティシェ氏は顔見知りだということでまたも話が広がる。偶然が連鎖した。しかもUさんとは読書の好みや発想の仕方がどうやら一致するようで、彼女が殿方だったら、もしくは自分が男だったら、即恋に落ちてしまったろうなというほどで。
Uさんはパティシェ氏を「ますらおぶり」と表現する。お逢いしてこんこんと話を聞くと、この「ますらおぶり」という表現が言い得て妙だと納得する。そして彼女とわたしは、そんなますらおぶりを備えた未婚で30歳以上の殿方がそばにいたら!と空を仰ぐ・・・。
今年の夏は文学旅をしたいなと思い始めた矢先のこの出逢い。もうこれは中上健次の世界を追うつもりで新宮に行くしかないだろう。機が、訪れた。