フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


by naomu-cyo
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晩年。

 太宰治に「晩年」と題された創作集がある。39歳でこの世を去った太宰の、27歳のときのもの。39歳で死んだ人の晩年ってどのあたりをさすのだろうと、この作品集を初めて読んだときに思った憶えがある。

 去年、六星占術を趣味にしている友人から「むーちょは晩年運がいいよ」と言われた。また、算命学を学んでいる年上の友人からも同じような指摘を受けた。晩年運、か。でも自分の晩年がいつかなんてわからない。「晩年」というのは、当人が関知するものではなく残された人たちの領域なんだと気付いた。自分が死してのち周りの人が、武藤さんの晩年は幸せだったとか不幸だったとか話題にするものなのだ(話題になるとはかぎらないが)。もしかしたら今が晩年な可能性だってあるってことだ。

 こういうことをなんの気なしに考えていることがままある。別に暗い気分を伴っているわけではない。いつ死んでもおかしくないのだという思いを常に頭の片隅に置いていると、毎日毎日が少しずつ変わってくるような気がしている。この撮影が人生最後の撮影でも後悔なきようにとか、この食事が最後の食事となっても後悔なきようにとか、日々における大きなことも些細なこともゆめおそろかにするまじという気になる。うわっ、めんどうくさいヤツだね自分、と一方では思いつつ。

晩年。_a0025490_7423183.jpg
 劇団花組芝居の水下きよしさんが亡くなった。享年54歳。ここ数年で花組芝居とご縁ができ、舞台や宣材の撮影で水下さんとお逢いする機会が何度かあった。まさか晩年時期の関わりになるとは・・・想像だにできなかった。「晩年」という言葉から連想するのは老いた姿だが、水下さんは長身で細身でとても若々しい方だったから、「晩年」という響きがどうにもしっくりこない。

 舞台ではお姿を拝見していたけれど、ハナオフ公演「六人のへそ曲り」の宣伝用スチール撮影で初めて面と向かってお逢いした。2011年2月の公演だった。水下さんは尾崎紅葉役。ほかにもちょこちょこいろんな役で登場されて、わたしが強く印象に残っているのは田山花袋「蒲団」の中の名(迷)場面を暑苦しく粘着質に熱演されている姿。紳士的なたたずまいの水下さんの豹変ぶりがおかしくって、舞台人ってやっぱり面白い!と強く思った瞬間だった。おととしの暮れの花組芝居全員の宣材撮影では、水下さんのたたずまい丸ごとが美しかった。ほんと素敵だったなあ・・・。爽やかな風をいつも内包しているみたいな水下さんと、もうお逢いできないなんて・・・。

 人の死を悼みながら、自分の生を問う。遅かれ早かれいずれ死ぬということに蓋をせず、ちゃんと生きてますか、自分。新年が早くもひとつきを終えようとしている。

 水下さんの過去の舞台写真が花組芝居のウェブサイト上で写真館となって公開中。こちらからどうぞ。
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by naomu-cyo | 2014-01-28 07:40 | 逢った人のこと | Comments(0)