フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


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旅欲

 今年の夏もどこにも旅せずに過ぎゆこうとしている。どこかで時間ができるだろうからそしたら新宮〜熊野〜吉野とまわろうか・・・と漠然と思い描いていたけれど、見事叶わずじまい。自営業だから好きに休めるのだが、自営業ゆえに目先の仕事がありがたくて休めない。性分もあるのだろう、根っからの貧乏性だ。

 個人的な旅にはゆけずとも、代わりに遠出の仕事で旅欲を満たした。いろんなところに出かけた。それは一泊二日や日帰りのごくごく短い旅だったけれど、建物だらけの風景と音と人の洪水からいっとき離れるだけで、電車の窓の外に山並みや田園風景が見えてくるだけで、気持ちもまなざしも遠くに遊ぶ気がする。故郷にあればなんてことない風景なのに、気持ちが一気に緩む、仕事に向かっているのを忘れそうなほどに。緑を恋しく想うことの多いこの頃だ。

 梨木香歩さんの「エストニア紀行」(新潮社)を読んだ。エストニア、行ってみたいなあと思って購入したのだが、読んだらいっそう行ってみたくなった。ところどころに差し込まれる木寺紀雄さんの写真も美しく、行ってみたい気をそそる。ニューヨークとかパリとかローマとか、そういう都市には全然興味がわかなくて、東南アジアにもリゾートな場所にも興味がわかなくて、行ってみたいと思うのはいつも控えめな印象の国や街ばかり。一度くらい行ってみたくなってもいいと思うんだけど、パリとかニューヨーク。正しい(素直な)憧れを抱けないままにこの年になっちまった。

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 先日、近所のUさんが仕事帰りに我が家に立ち寄り、梅酒を飲みながらあれこれ話すうちに、話題が思わぬ方向に展開していった。ジャズの話から、かつて観たジャズが描かれた映画たちのパンフレットを戸棚から引っぱり出し、そこから90年代の映画の話になり、なんていい時代だったんだろうと懐かしがった。景気もまだ元気で、もの作りをするのにお金をかけられた時代だったんじゃないかと振り返る。中国に返還される前数年間の香港映画の円熟期は素晴らしかったとか、最初に観たフランス映画の思い出とか、目に触れるあらゆるものから何かを吸収したくてたまらなかった時期だったなあなんて話した。いつの間にか映画をあまり観なくなって、それに代わるように落語を聴くようになり、そうしてどんどん日本の歴史とか文化とか民俗学のほうにのめっていき、とうとうきものの深みにはまりこみ、今に至る。この軌跡は一体どういうことなのだろうなあ。

 今月は半ば以降に遠出仕事が続く。月末の飛騨高山〜富山行きはまさに旅欲を満たす内容。こうして旅欲を仕事で代替して満足できてしまうから、自ら旅に行こうとしなくなっちゃうのかもしれないなあ・・・とも思う。仕事での旅と個人の旅は別物なんだけど、個人の旅でも同じように写真を撮るからなんとなく満たされてしまうんだ。かつて映画を頻繁に観ていたときも、旅欲の代替みたいな気持ちがあったのかもしれない。なんとお手軽な自分・・・!

 今どこに旅したい?と訊かれたら、変わらずにベオグラードと答えるだろう。それからポルトガルへ再び。
 
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by naomu-cyo | 2014-09-09 11:21 | | Comments(0)