フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


by naomu-cyo
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「f植物園の巣穴」(梨木香歩/朝日新聞出版)を読む

 不思議な物語だった。主人公が自分の過去や自分の生まれる以前の過去を行き来する物語・・・なんだけど、それはほんとうの過去というよりも、ずれた次元の中で繰り広げられる過去、といった趣き。「異界」と呼べる類いの過去、もしかしたら過去ですらないのかもしれない。その中で主人公は、置き去りにしてきた心やすっかり忘れていた過去に出逢い直し向き合い直し、そうして成長をし直すかのような経験をする。

 梨木さんの描く「異界」にはほのかに懐かしさを憶える。ありえない世界なのではなく、いつかあった世界をもう今では失われてしまった世界を見せてくれているような、今と繋がっているような感じのする「異界」が描かれる。温かな異界。

「f植物園の巣穴」(梨木香歩/朝日新聞出版)を読む_a0025490_149472.jpg
 つい先日のこと。機材をもって電車に乗り込み、顔を上げたとき目の前に立っていた50代半ばと思しきサラリーマンが見覚えのある装丁の本を読み耽っていた。それは梨木さんの「海うそ」という作品で、ちょっと前に読んで心がふるえた作品だった。鞄を脚の間に挟み背筋を伸ばし本を低めに構えて読み耽るその姿にとても心惹かれるものがあって、そのたたずまいは梨木さんの作品にとても添っているように思えた。いい風景だった。その男性が読み終えた暁には感想をきいてみたいわあ・・・なんて思ったけれど、話しかけられるべくもなく・・・。公園のベンチで、アルコールはあえて交えず、きいてみたいなあ、あんな形で本を読む人があの作品をどう感じどう読んだのか。
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by naomu-cyo | 2014-09-22 01:48 | 読書 | Comments(0)