9月末に高山沿線を旅する仕事をいただいた。そのとき訪れた富山の古書店
ブックエンドで「潮の呼ぶ声」(石牟礼道子/毎日新聞社)と「色を奏でる」(志村ふくみ/ちくま文庫)を購入。ご一緒したベテランライター氏はわたしが手に取った本を見て、「いいよ、石牟礼さんの作品は。読んだほうがいい」としみじみおっしゃった。彼女の著作は以前から読まなければと思っていたのだが思いきりがつかずにいたところに、「苦海浄土」の未発表原稿が見つかったという新聞記事を読み、古書店でめぐり逢って今がタイミングだと思った。志村さんの著作は「伝書 しむらのいろ」(求龍堂)を読んでほかのも読みたいと思っていた。
おふたりの著作には、共通する思想が流れているのを強く感じる。まるでシンクロし合っているかのように自然に対する思想や言葉のたたずまいが近しいのだ。年の頃もほぼ同じくらいで、このおふたりはなんと似通っていらっしゃるのだろう、対談を聴いてみたい・・・と思っていたら、すでに親密に交流されていることを知った。わたしが不勉強なだけだった。「遺言 対談と往復書簡」(志村ふくみ、石牟礼道子/筑摩書房)。
作家と染織家、それぞれの立場で自然と向き合い、破壊されてゆきつつあることを嘆き憤り、警鐘を鳴らす。人としてというよりも、地球に生きる生命体のひとつとして、本然の姿に立ち返ることを強く訴える。おふたりのペンは鋭い。90を越えたおふたりの、どうしても言い残しておかなくてはとひたむきに綴るご様子がずんと伝わってくる。これでもかというくらいに言葉に力が宿っている。そして自然を描くおふたりの言葉たちがとても美しい。こんな表現があるのかとはっとさせられるほどに。
読みながら想像してみる、自分が知らない自然の姿を。コンクリートのない世界、木と紙でできていた住まい、電気がなかった時代。便利の代償はがあまりにも大きかったことを身を以て知るのはいつのことになるんだろう。
「遺言 対談と往復書簡」には志村さんの染めた糸たちの写真が掲載されている。化学染料に頼らない自然からとられた色で、どれもこれも透明感と気品があって正直な美しさをまとっている。これら自然の色を手放して、何を美しいと呼ぶんだろう・・・そんな気持ちにさせられた。