フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


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相手の都合に付き合う

 3泊4日、初めて訪れた木更津は、どことなく故郷・日立に似ていた。すっかりさびれた商店街に海風が抜けていく。スプレーで壁に落書きされた「参上」の文字に思わず苦笑い。そんなところも似ていた。

 濃厚な取材だった。連日前のめりになって話をきき、あれもこれもとたくさんシャッターを切った。取材場所はNPOが運営する3つの福祉施設と、カフェと作業所。被写体はそれらの利用者である高齢者と障害者、そしてスタッフの人たち。それぞれの代表は交流がさかんで、共通した理念をもっていた。

 3日目の夜、取材スタッフと施設代表者さんたちとで宴が催された。「子どもの夜泣きがひどくて眠りを妨げられるからって母親は赤ちゃんに睡眠薬を飲ませないでしょ。でも赤ちゃん返りした老人には睡眠薬を飲ませるんですよ。おかしくないですか。つまりは施設の側の都合なんです。自分たちの手間が増えるから薬でおとなしくさせるんです。そんなのおかしい。うちは利用者さん個々人の都合にとことん付き合います」とI代表。痴呆が始まって徘徊するお年寄りがいらして、その徘徊がひと段落するまでスタッフさんはずっと付き添っていた。毎日1時間ほど街中を歩きまくる失語症の男性にもスタッフがずっと付き添っていた。そして居間のソファーで恍惚の人と化しているお年寄りのすぐ隣りでスタッフが何をするというわけでなくただただ付き添っていた。民家をそのまま使った施設であることも驚きだったけれど、徹底して相手の都合に付き合う姿にも驚きだった。これまで取材や祖母の見舞いで訪れた老人施設と完全に一線を画していた。

相手の都合に付き合う_a0025490_3262653.jpg
 初めて障害者の作業所を訪れたのはたしか二年前で、重度の利用者さんが多かったせいもあったのだろうと振り返ってみて思うけれど、とにかく胸をつかれたような気持ちになって、一旦そうなると心がひいてしまって自由な気持ちで写真を撮ることが難しくなった。けれど、今回は違ったように思う。障害の有無に関わらずほかの取材同様ふつうにいい写真を撮りたいと思い、それを実践することに徹した。編集長の、「僕たちは障害ありきとわかって取材しに来ているからどうしたって障害者という目線で入ってしまう。そこなんだよなあ、違いは」というような言葉を前日にきいていたからでもある。T代表やH代表は「利用者さんそれぞれの得意なことやできることに合わせて仕事を見出す」と話していらした。仕事ありきではなく人ありき。障害の程度に違いはあれど、みな作業に従事していた。躍動感があった。仕事があるってやっぱり悦ばしいこと。そこのところは自分が自営業だからものすごくよくわかる。

 老人施設では生の終わらせ方について、障害者の作業所では働く悦びについて、思いを巡らせた。考えてみたところで答えがすぐ出るわけじゃない。それよりもなによりもいちばんの収穫は彼らのような考えと実践を知ったことだ。今日髪を切ってもらいながら美紀さんに彼らのことを話したらすかさず、「わたしも年とったらそこに入りたい!」と。わたしも同じこと思った。
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by naomu-cyo | 2015-06-17 03:26 | 逢った人のこと | Comments(0)