フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


by naomu-cyo
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気になる、駅のポスター

 北海道新幹線開通で、駅のほうぼうのポスターが北海道一色になっていたとある日。アイヌの装束を身につけた白ひげおじさんの肖像写真が使われたポスターに目が留まった。

 この装束、もしや厚司織では?

 3年くらい前になるだろうか、青山にある呉服屋「ゑり華」のセールに出かけた。並んだ着尺や帯地の反物を手に取ってあれこれ眺めるうちに、強烈に気になる1本に出くわした。店主に「これ、なんですか!?」と勢いこんで尋ねると、アイヌの織物で厚司織というもので、京都の問屋さんでも年間2本くらいしか扱ってない希少な織物(絶滅危惧種とも言える)だと教えられた。おひょうという木に祈りを捧げて皮をはぎ、煮てほぐして繊維にし、おばあちゃんが腰機で織るのだと資料を見ながら説明してくれた。「祈りを捧げる」というくだりですっかり魅了された。捧げられるのはアイヌ語による祈りの言葉なのだろうか。見せてもらった帯地は茜で染めた糸と地色とで縞を織り上げたもの。自然布の帯にはずっと興味があったのだけれど、見かけるものはたいてい地色のままでそれは今のわたしにはまだ時期尚早、地味に思えてなかなか手を出せないでいたのだが、これは違った。地色に乗った茜色は温和な赤味で、これならわたしの年齢でもてらいなく締められそうだと思った。

気になる、駅のポスター_a0025490_2412323.jpg
 出逢ったそのときがタイミング、きっとなかなか出逢えるものではない。アイヌの人たちが大地を想うその心が織り込まれているような気がして、先のこと(つまり支払い)をほとんど考えず思い切って我が家にお迎えした。身にまとえばたちどころに豊穣な大地の力がもたらされるような気になる。その帯を締め、いつぞやアイヌの作家による工芸展を見に行ったら、会場にいらした作家さんが「あら、それ、多分○○さんの織った帯よ」と声をかけてきた。出元がたちどころにわかるということは、作り手が少ないということだろう。その日は琉球のきものを着ていた。北と南の布を身にまとい、ひとりすっかりご機嫌だった。

 その後日本民藝館で、展示されている厚司織の装束を見た。文様の入ったそれは勇壮で威厳に満ちあふれ、帯で見るのとはみなぎる力が格段に違うような気がした。もしかしたら、かろうじて帯という形で生きながらえている織物なんだろうか?

 ポスターの中で実際に身につけている姿から、民族を象徴する代名詞的な存在感が伝わってきて、しばし立ち止まらずにはいられなかった。
Commented by team-osubachi2 at 2016-04-07 09:37
武藤さん、ぜひ『アイヌ神謡(カムイユカラ)集』いつか読んでみてください。
何年も前のこと、どんな風にしてこの本が編さんされたか(このこと自体まるでひとつのドラマです)、そのドキュメンタリーを見て初めて知った本です。
ちなみに、琉球犬とアイヌ(北海道)犬は、どうしてだか遺伝子的にとても近い種類って聞いてます。
偶然ながらも琉球の着物にアイヌの帯という組み合わせ、不思議と、でも自然に互いに響き合うのですよねえ、きっと♡
Commented by naomu-cyo at 2016-04-11 01:50
team-osubachi2さん・・・帯きっかけでアイヌの本を一冊読みました。比較文化人類系の本でした。どこから人が移動してきて日本ができたか、を感じさせるものがありますね、琉球とアイヌのわんこの遺伝子が近いなんて。琉球のきものとアイヌの帯も親和性があります、とても。しっくりします。
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by naomu-cyo | 2016-04-05 02:41 | お着物 | Comments(2)