いい本読んだ。〜「日本のたくみ」白洲正子(新潮文庫)
2016年 06月 23日
白洲正子さんのものを読むようになったきっかけはなんだったろうか。まだフィルム撮影がふつうだった頃に取材で武相荘を訪れたのが読んでみようかのきっかけだったように思う。たしか20代の終わり頃だった。もともと日本ならではの文化には興味があり、それを暮らしの中にふんだんに取り入れてある武相荘を見て、心が動いたのではなかったか。
今回久しぶりに白洲作品を手に取った。「日本のたくみ」(新潮文庫)は、工藝やら民藝やらにのめりこんでいる今のわたしには目をみはるような一冊だった。「たくみ」たちそれぞれがこしらえたモノにまず出逢い、作り手に辿り着き、制作現場に触れ、作り手と言葉を交わす。自分の文脈で押し進めるのではなく、たくみたちそれぞれの個性をつかみそれに乗っかって話を交わしながらも、いち使い手として感じたことや伝えたいことはストレートに伝える。自分のモノを見る眼や実感に確信を持っていないと、その道のプロにものを言うことなどできないだろう。
登場するたくみは多岐にわたる。生活に寄ったものをこしらえるたくみが多く紹介されているのは、白洲さんが暮らしを慈しんでいらしたからだろう。「贋物づくり」に登場した陶芸家の横石順吉さんの話は、骨董を愛する白洲さんならではの切り口が感じられて、とても胸を打つ章だった。贋物はあくまでも悪い、と断ったうえで、「本物のような顔をした贋者が、大手を振って世間に通用している」ことを思えば、「A子ちゃんに会いたさに、贋物を造った順吉さんの方が、どんなに無邪気でまともな人間か」と述べている。
おそらく登場したたくみの多くが既に鬼籍に入られていることと思う。ああ、10年早くこういうことに興味をもっていれば・・・と思うことが度々ある。しかし一方で、全く知らずに過ごさなくてよかった、とも思う。間に合ってはいないけれど、知れてよかった。