フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


by naomu-cyo
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市場ざんまい。

 こんな偶然も稀なこと。今月、築地市場と大田花卉市場で撮影があった。前者は夜明け前から、後者は夜をまたいでの撮影。どちらも体力勝負みたいな現場だったけれど、ふだんその存在を意識することなく暮らしていながらその実とても関係のあるところなわけで、そこでどういう時間が流れているのかを見て聞いて撮るのは、とても有意義なひとときだった。未知の世界に触れるのはいくつになっても好奇心を刺激される。いい経験をした。

 通常の仕事というものは朝の9時から始まり8時間働いて、残業はあっても、まあ19時20時に終わる・・・的な労働時間の概念みたいなものがいつの間にか埋め込まれており、そんな中自分の生業であるカメラマンなんていう仕事は、その日によって始まりも終わりもさまざまで、1時間で終わる仕事があるかと思えば、何日もかかる仕事もあったりで、労働基準法とか昨今よく耳にするコンプライアンスなんてことは意識のまるで外にある。ただ、朝起きて夜寝ての部分は同じなわけで、ゆえに通常の仕事の範囲ではあると思う。

 ところが、市場の仕事というのは大多数の「通常」に間に合わせられるように設定されており、外が真っ暗なうちに始動する。築地市場のときは午前4時頃から撮影を始め、大田花卉市場ではさらに早まって21時半に撮影開始だった。そのときにはすでに現場は動き始めているのだ。思わず「どのタイミングでビール飲んでるんですか?」と担当者に尋ねたら、「仕事終わって昼だね」との返事。平日だったらちょっと後ろめたく感じるような昼ビールだが、市場で働く人にとってはそれが日常なのだ。

 世の中の仕事を大雑把に区別するとしたら、お天道さまの動きに添って営まれる仕事とそうでない仕事とに分かれるということか。大多数の人がお天道さまの動きに添った仕事の部類に入り、世の中がそこを基準にして動いているとなると、そうでない側はいろいろと不都合が生じると思う。もちろん慣れてゆくのだろうが、学生時代の仲間と平日夜に飲みに行くなんてことが容易でなかったりするにちがいない。また、伴侶をもつということに関しても、そうした逆転生活を受容する柔軟性のある相手とでないとちょっと難しいのではないか。そんなことが気になって担当者に尋ねたところ、「そうなのよ、けっこう独身が多いのよ。出逢いそのものが少ないから、社内結婚も多い」との返事。やはり。

 そうか、独身が多いのか。身体をめきめきと動かして働く殿方はこんなにもかっこいいのに、なんてもったいないことだろう。築地では男気あふるるような殿方が多く見られ、大田市場では爽やかできびきびした殿方が多く見られた。自分好みな殿方を見つけると、おのずとシャッターを切る枚数も多くなる。身体は動かしてなんぼ、であるなあと感じ入る。美しいのである。一挙手一投足に無駄がなく、描く身体の線がとても美しい。

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 両方の市場でセリの風景も撮影。築地のセリでは、セリ人それぞれのセリ声も堪能した。これはもう芸能の域なんじゃないかという節回しが聞けたりする。特に決まりはなくおのおのが工夫するのだという。「セリ声のいい人は歌もうまいですね」と担当者。わかる気がする。耳に心地いいのだ。

 現場で働いている人たちにしてみれば日常のことでも、外からやってきてその営みを眺める側からすると、ほれぼれするような動きにあふれていて新鮮で撮りどころが満載。いい写真がたくさん撮れたなあと昼間からビールをぐびっとあおった。

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by naomu-cyo | 2016-08-23 04:22 | お仕事 | Comments(0)