先週末、手仕事フォーラムの学習会で盛岡へ行ってきた。3日間にわたる学習会のうち、土曜日のみの参加。金曜日の夜行バスで新宿をたち、土曜日の夜行バスで盛岡をたつ。車中2泊の強行旅で、初夏に同じような日程で山形に芝居を観に行ったのだが、目的がピンポイントで滞在時間が短かいときに夜行バス移動はかなり便利だと実感。これも、どこででも眠れる性分だからできることだろうけれど。
早朝5時に盛岡に着いたところで行くあてはない。散策ついでに橋の上から岩手山を望み、「壬生義士伝」(浅田次郎)の主人公・吉村貫一郎の「おもさげながんす」という南部方言を思い出し、川沿いの木陰で読書に耽った。午前中の訪問先がホームスパンの蟻川工房なので、以前東銀座にある岩手のアンテナショップで見つけた
「HOMESPUN in IWATE」(まちの編集室)を読み込んで予習を兼ねる。丁寧に作られたビジュアルもとても素敵な一冊で、こういう仕事をいただくにはどうアプローチしていけばいいのだろうなどと我に返りながら読み終える。

蟻川工房へ移動。集合より早く着いてしまったので、先に入ってお話を伺ったり作業を見学したりする。蟻川さんから刈りたての羊毛一房を手渡されたので、触ったり匂いをかいだり。脂っこくて獣臭がする。品種によって毛の特徴が違ってくるので、用途に合わせて数種類の羊毛を仕入れているとのこと。このふさふさがいくつもの工程を経て糸になり服地になっていくわけだ。それは単純には想像できない遠い道のりに思われた。

参加者が揃い、代表の伊藤さんから作業ひととおりの説明があった。素材が違っても糸を作るという工程は、羊毛でも絹でも似た過程を経ることがわかる。以前訪れた紬の産地では「織り子希望者はいるんだけれど、糸を紡ぐ人がなかなかいなくてね」と伺った。そのことを伊藤さんに伝えると、「えー!この、糸を紡ぐっていう作業がおもしろいのに!」とおっしゃる。ゆったりと楽な姿勢で床に座っているようでいて、撚りをかけながら糸を紡ぐ指先、そこだけに意識が結集しているように見える。一点に寄る緊張感。

服地は着尺よりもずっと幅が広い。機にかかっていた織り途中の青い生地が美しかった。刈り取った羊毛が手間ひまかけて一反の服地になるまでにはおよそひと月かかるのだという。早送りで工程を見せていただいたが、ひとつひとつが時間のかかる作業であることは一目瞭然だった。「早く出来上がるのがいいものでもないでしょう」というようなことをおっしゃっていらしたが、ほんとにそう思う。それは織物にかぎらず言えることだろう。