14日、柳家喬太郎師匠の欧州落語ツアーがスタート。ディレクターの馬場さんとプロデューサーのクララからカメラマンとして同行しないかと声をかけられたのは去年の11月半ば頃で、考えるまでもなく「行きます!」と快諾し、あと一年後か・・・などと思っていたらその一年はあっという間に過ぎた。出発前のひと月半ほどは、毎日撮影と納品に明け暮れた。お世話になっているクライアントさんのいくつかが、そういうことならと撮影を前倒しにしてくれたのがとてもありがたかった。
海外は10年ぶり、欧州は20年ぶり。日曜夜にJ-WAVEで野村訓市氏の旅がテーマの番組を聴くのが最近の楽しみで、直近で聴いたときの一曲目がフェイ・ウォンの「夢中人」だった。たちまちに気持ちが仕事モードから旅モードに切り替わった。映画「恋する惑星」の挿入歌で、弾けるような曲調が旅心をむしょうにかき立てる。そもそもこの番組を聴くようになってから、「旅」が脳内をちらつくようになっていた。
喬太郎師匠、春風亭正太郎さん、馬場さん、クララ、そしてわたしの五人旅。師匠や正太郎さんとは何度も面識があるから緊張しすぎることはないけれどもやはり少しは緊張する。一路デンマークはコペンハーゲンに向けて旅立った。12時間のフライト。
道中、20年も前のスペイン・ポルトガルひとり旅のことをありありと思い出す。語学が苦手だから飛行機の乗り換えをしないルートで行こうとか、荷物を預けなくて済むよう軽装で行こうとか、インターネットというものがない中でよくもまあ2週間の旅を無事終えてきたものよ、と今更ながら思う。国内を旅するとき同様行き当たりばったりで、宿の予約も綿密なスケジュールを組むこともしない旅だった。檀一雄が暮らしたポルトガルのサンタクルスへ行く、ということだけを決めていた旅。使い勝手のわからない一眼レフひとつを持って、ピントの合っていない写真をたくさん撮ってきた。その自分が20年後カメラマンとして欧州へ行くとはなあ・・・感慨深いものがある。カメラマンなら海外ロケがありそうなものだが、わたしはアシスタント時代に何度かくっついていったきりで、自分がいただいた仕事で出かけるのは今回が初めてだ。パスポートとカメラとパソコンだけは肌身離さず持ち歩けば、あとはいい写真を撮り重ねればいい。
何度か食事やお茶が供され、機内では映画を2本観た。金城武主演映画(英語字幕)と矢口史靖監督深津絵里主演の「サバイバルファミリー」。久しぶりの金城武は20年前に「恋する惑星」で観てファンになったときと変わらずに麗しくそれでも時間が余って、本を読んだり寝たりなんだりで、ようやっとコペンハーゲン空港に降り立った。外の喫煙所で師匠がひとこと、「なんか、ヨーロッパに来たって気がしないなあ。東葉勝田台とか行徳って感じ?この駅前。行ったことないんだけどさー」とおいしそうに一服。
空港も、そこから直結している駅も照明が暗い。人の顔の判別ができかねるほど。オレンジ色の光が優しい。ああ、そうそう、20年前の欧州もこんな照明加減だった。これがおそらく欧州の光。夜は大人のもの、っていう印象。一気に欧州感が満ちる。そこから陸路で3時間かけてデンマーク第二の都市・オーフスに向かった。