フォトグラファーの武藤奈緒美です。日々感じたことや思ったことを、写真とともにつれづれなるままに。


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欧州落語ツアー〜オーフス観光と落語会編〜

 11月15日。夜明けが遅い。6時過ぎに起きて朝食を食べにホテル地階へ。外は真っ暗。

 それにしてもパンが美味い。ついつい追加して朝食とは思えないほどの量を食べてしまう。時間を決めておいたわけではないけれど自然と一座がそろい、スケジュールの確認。午前中はオーフス大学の日本語を勉強する生徒さんたちの案内で観光することになっている。

 8時半に生徒さん3人がいらした。なんとまあ、背の高い脚のすらりと長い若者たちよ。正太郎さんは「腰の位置が違い過ぎる。しかもイケメンじゃん!」と驚き、彼らと並んで写真を撮るという自虐を披露。師匠は自己紹介してにこやかに彼らと握手を交わす。そして街へ繰り出した。


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 石畳に、ひとめで古そうだとわかる石造りの建物に、緑のドアのついた集合住宅。選挙が近いんだそうで、あちこちに顔写真の入ったペナントがぶら下がっている。古いエリアですと案内された、カラフルな戸建ての家が並ぶこぢんまりとした路地を見て師匠がひとこと、「長屋だな」。落語の世界に置き換えずにはいられない性なようで、行く先々で落語的考察(?)が入り、そのたびに笑いが起きる。落語という共通項あるゆえの笑いでもある。長屋風ではありますが、壁から隣家の釘が出てきたり穴を開けてのぞかれたりはしなさそうですよ、師匠。とてもカラフルなのに色がうるさいと感じないのは、彩度の度合いによるものか。いや、色でもって自己主張しようという気がないからかも知れない。調和が機能している。

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 広場の教会を見学。天井が遠く、高い位置の窓から光が差し込む。場所が呼ぶのか神々しい気持ちが自ずからわいてくる。師匠は椅子に座ってしみじみという風情で正面を見上げていらした。同じ広場に劇場があり、昔からかわらずそこにあって重厚感を漂わせているような外観。扉の細工が手がこんでいて、そこを背景に師匠と正太郎さんの2ショットを撮影。「あれだな、オーフス演芸場(大須演芸場に掛けている)だなここは」と師匠。一堂大ウケ。オーフス演芸場以外のなにものでもなくなった。馬に乗った人物の像を見上げては「太田道灌公が狩競に出かけたんだな」と落語「道灌」を引き合いに出され、そうなるともうそれは西洋の像ではなく太田道灌公にしか見えなくなる。落語が鮮やかに西洋を駆逐した。おそるべし、落語。

 デンマークの伝統菓子を師匠にご馳走になる。チョコレートコーティングしてあるぽってりとした形状にぽちっとした突起が出ていて、おそらくその場にいた日本人皆が同じものを連想したに違いない。「まさかそれでこのお菓子を選んだんですか!?」と尋ねたら、「むーちょさん、なんてこと言うんですか!そんなわけないじゃないですか、師匠にかぎって!」と正太郎さんが笑いを含みつつ返す。その後、いったんホテルに戻って落語会の支度をし、オーフス大学に向かった。

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 学生さんの説明によると、オーフスは学園都市らしく、ほうぼうから学生が集まってくる。ひとり暮らしする学生も多いのだとか。バスを降りて長い坂道をのぼると、そこにキャンパスが広がっていた。なんとまあ、広大な。そしてすっきりとしたデザインの美しい建物群。紅葉もきれいだ。案内されたのはそのうちの建物のひとつにある階段教室。「柳家喬太郎丁抹落語会」の貼り紙が入り口に飾られる。丁抹すなわちデンマーク。昼食は学食で摂った。めいめいが好きなものを選んで皿にとっていき、レジのところで重さをはかって金額が出る。朝食を食べ過ぎたので、少なめに、野菜や豆を多くした。オープンサンドがやたら目につくが、これはデンマークの食べ方なのだとか。どこも混んでいたので、テラス席で並んで食べる。クララが現地の学生さんに渡したのは村上春樹の「ノルウェイの森」の日本語版。ここでも人気があるんだそうで、ほかに川上弘美の名前が挙がった。わたしたちが「あらくまさん」と呼ぶことになった男子学生は、卒論のテーマが「日本のエネルギー政策」についてで、もうひとりは「慰安婦問題」についてだとこの食事の席でうかがった。きけば、デンマークは原発を導入したことがないとのこと。日本語を学ぶのだって複雑で大変なことだと思うのに、さらにエネルギー政策だ慰安婦問題だで、ほんとに頭が下がる想い。

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 いよいよ欧州落語ツアーの初回、デンマーク公演が始まる。高座後方のスクリーンに、デンマーク語の字幕が出る。師匠が、手ぬぐいや扇子を使ってまずは仕草の説明をし、その後イラストレイターのとつかりょうこさんが描いたゴジラのアニメーションを見た後で、それを師匠が再現してみせる。これで落語って簡単に言うとこういうものなんです、という説明になっている。落語の無限のクリエイティビティを披露した、ということになるのではなかろうか。

 そして師匠の高座「寝床」、正太郎さん「反対俥」、師匠「うどん屋」と続く。日本語を学ぶ学生さん方の反応は頗る良くて、終始笑っていらした。表情の大きい人もそんなでもない人も、一様に口角が上がっているのをファンダー越しに見上げながら、通じている悦びを感じた。この後師匠が「ギャグみたいなところは通じなくても、情に関する部分は通じるんだなあ」とおっしゃったことに尽きる。感情領域における民族を越えた普遍性を目の当たりにしたひとときだった。

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 夜は会食。オーフス大学の窓口になっていただいたアネモネ先生と街案内してくださった学生さんたちと現地日本大使館の方たちとともに、地元レストランで同じメニューに舌鼓を打つ。なにしろこの店、メニューがひとつだけでしかも日替わりなのだとか。その唯一の煮込み料理がむしょうに美味しかった。大勢で食卓を囲む幸せを旅の間中享受しまくったのだが、これはほんの二夜目の風景。

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by naomu-cyo | 2017-12-20 01:14 | | Comments(0)