きのう撮影現場である46階から眺めた月も美しかったけれど、今宵落語会へ向かう道すがら、お寺の木々の間から見えた月はさらなる美しさだった。こっちを静かに強く見つめ返してくるような迫力にあふれていた。
こんな月夜の晩、玄関を開けて部屋に入ると、真っ暗な部屋の奥の庭に面したサッシの向こう、軒下に置いた縁台がぼーっと白く光るのが感じられる。月の光の強さにはっとする。部屋のあかりをつけカーテンを閉めて遅い晩ご飯の支度をしていたら、網戸をがりがりいう音がきこえた。最近まめに通ってくる近所の猫だ。カーテンを開け、買い置きしてあるドライフードを器によそうと、そこに寄る猫の影が縁台にくっきり浮かんだ。満ちた月の光はやはり強いのだ。
東京の夜景を眺めると、「夜景なんてただの電気じゃないですか!」と身も蓋もないことを言い放った某直木賞作家の言葉を思い出して思わず笑ってしまう。その作家さんは、夜景そのものを描くよりも、ひとつひとつの電気の下にあるそれぞれの暮らしや人生を描くのに長けた人だ。思い出したら読み返したくなった、珠玉の短編集を。