新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が解除になって数日後、唐突に、「このごろ都にはやるもの・・・」という言葉が頭をよぎった。しかもJITTERIN'JINNのヒット曲の冒頭「あなたが私にくれたもの〜」のリズムにのって。あ、これ何だったっけ、歴史の授業で習った記憶がある・・・早速インターネットで検索したところ、後醍醐天皇の御代、建武の新政の渦中に掲げられた
二条河原の落書の冒頭の言葉だった。
此比都ニハヤル物
夜討(ようち)強盗謀綸旨(にせりんじ)
召人早馬虚騒動 ・・・
思えばコロナ渦中で売れていたもの(流行っていたもの)って、マスクに消毒液、ビニールシート・・・何だか色気のないもんばっかりだな・・・と思った矢先に浮かんだのが「此比都ニハヤル物」だった。どれもこれも消耗品で、手元で慈しむ類ものではない。ウィルス蔓延状況でそれらが何よりも優先するべきものであることはもちろん重々承知しているが、モノ好き買い物好きなわたしとしてはその現象に何だかひどく悲しくなった。
マスクは友人からもらったものと実家から送られてきたものとを湯煎して繰り返し使ってしのいだ。並んで買うほどの真剣みもなければきれいに手作りできるほど器用でもなかった。消毒液は仕事場の来客用に購入しただけ、ビニールシートは買っていない。その一方で、やたら手紙を出したのでふだんよりも切手代がかかり、作品撮りで歩き回るためのウォーキングシューズを買い、これはどうしても欲しいと浴衣生地を買い、未読本がたくさんあるのにさらに何冊もの本を購入した。「此比都ニハヤル物」よりは色気があるだろうか。できることならミニシアターのクラウドファンディングや飲食店のテイクアウトにも積極的に協力したいところだけれど、東日本大震災のときとは話が違って、今回は自分の仕事もめちゃくちゃ打撃を食らってしまっていて先が見えない。無理はできない状況だ。
物品に限らず、コロナ渦中から今に至るまで「此比都ニハヤル物」はいつになくめまぐるしく移り変わっているように思う。SNSを眺めているとそのスピードにクラクラし、ついていけてない自分に気付く。こんな流れに身を任せなければいけないのだろうか。いや、いいのだ、ついていかなくても構わないのだ。マスクや消毒液、ビニールシートに対応したときのように自分のペースや考えでコロナ後の世界に慣れていけばいい。自分で決めていいのだ。
コロナのダメージはまだまだ後を引くだろう。むしろこれから本格化する可能性が高い。今年はもう半ば諦めた気で、コロナ渦中に思いついたことをひとつずつ形にすることを目標にしてゆこう。周りの流れは見ない。もともと歩調を合わせてきたわけではないのだ。
(写真 コロナ渦中で移り変わった花の風景)