「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」を読んで
2006年 06月 16日
「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」はソビエト学校時代の友人に逢いに行った話が三話収められている。この「友人に逢う」ことからしてスケールが違う。国境を越え時には政情不安な地域にも足を踏み入れる。
三話中の「白い都のヤスミンカ」は最も興味を感じた作品。1990年代初頭に勃発したユーゴの内戦のさなか、米原さんはボスニア・ムスリムである友人ヤスミンカに逢いにベオグラードへと向かう。この内戦を描いた映画は今まで何本か観たが、あまりに多くの戦死者と難民とレイプ被害者を出した争いの発端がなんなのかいまいちつかめないでいた。今回彼女の作品を読んでその背景がおぼろげながらつかめた気がした、心情レベルでは理解できないまでも。
ソビエト学校には50ヵ国にわたる生徒が通っていたという。おのおのが祖国を説明する課題があり、みな自国にいい印象をもってもらいたいと懸命になって発表したんだそうだ。自分の国を愛しほかの人の祖国を愛する気持ちを知る、自然な平和教育。
「国家」「国境」「民族」「宗教」「言語」・・・自分自身これらのことを通常意識しないで暮らしている。他国をおとしめて自国を称賛するような愛国心はいかがなものかと思うけど、無関心なのもおそろしい。彼女の作品は体験を通して得た考えや感想をあくまでいち日本人の立場で伝えているので親近感をもって受け止められた。
時はまさにワールドカップの最中。血の流れない戦いを通して国家や民族のことを考えてみるいい機会なのかもしれない。初登場にして最後の出場となるセルビア・モンテネグロはユーゴの内紛から10数年でワールドカップの切符をつかみ、今度はモンテネグロが独立する。いまだに動きは止まらない。血が流れないことを心から願うのみ。
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そう、彼女は体験をだらだら書き綴ったわけではなく、緩急のある展開で、読み手の心を奪ってくれましたね。ほんとに映画を観るごとくにエンターテイメントでした。