父は再び旅立った。
2009年 06月 16日
「あら寝てた?お父さんまた大連に行ったわよ」と父の旅立ちを聴かされる。
「あれ?もう引退したんじゃなかったの?」
それより以前の電話では、御年66歳の父上はいよいよ仕事を引退し、長らく滞在していた大連から引きあげて即座に、わたしが5歳の頃から使い続けてきたベッドを躊躇することなく解体し、かつてわたしの部屋だった場所を自分の趣味の部屋にするべく大模様替えに着手したと話していたのだった。
「なんか人手不足なんだって。今月末にいったん帰国して今度はタイに行くんだって」
「それは旅行?それとも仕事?」
「仕事よー。なんでもスタッフのひとりが足を骨折したとかで、その人が復帰するまでお父さんが手を貸すことになったらしいの」
「いいなあ、タイ。行ったことない」
「行ってきたらいいんじゃない?お母さんは行かないわよ、面倒くさいもの」
うちの母親は沖縄のリゾートに行って二日目にして「やっぱり家がいちばん」とのたまうような人なので、国内外問わず出張し続けてきた父は常に単身赴任だった。あたしがそういう状況だったらくっついて行ったろうなあと思うのだけど、方向音痴で人見知りな母はかたくなに日立の家に居続けた。父がカナダに出張している間にあたしは日本で生まれた。おかげでバイリンガルになる機会を逸した。
両親を見ていて、娘ながら不思議な夫婦よのう、と思う。父はまめに手紙だの電話だのを寄越すけれど、それでも長く夫婦をしてきているわりに一緒に住んでいる時間がとても少ない。でも子どもの頃から父の不在はあたりまえだったから、不自然な感じはまるでない。「あ、そう。お父さんまた旅行に行ったんだ」という感じ。旅行ではなく仕事だけど、父がいつだったかプロフィールの趣味の欄に「海外旅行」と書いていたのを見つけたことがある。たまに長期間家にいるときでも仕事の愚痴を聴くことは皆無に等しかったから、父にとってその仕事は天職であると同時に趣味でもあったのかと思う。あ、一緒じゃん、あたしも仕事が趣味、趣味が仕事みたいになっているよ。天職なのかどうかの答えはきっともっと先に出るんだろうけど。
そんなわけなので、父の日にああしようかこうしようかプランはまたしても計画倒れになった。タイから戻って今度こそほんとうに引退、となったら温泉旅行でもプレゼントしようかしら・・・と思っているけど、「やっぱり家がいちばん」な母の要望もきいておかねばなるまいね。
ウェブサイトを更新しました!またもや井澤母子に密着した写真たちです。心ちゃんの成長が早くてびっくり。http://www.mu-cyo.com/
(ちなみに写真はうちの両親とはなんの関係もない風景)