前回の投稿からひと月余り、コロナ禍が我が身にも顕著に襲いかかってきている。
3月後半以降、取材の中止と延期の嵐、月変わって4月は実に寒々しいスケジュールになっている。元々の予定を修正液で消して・・・という作業がぐんと減った。動きが止まっているからもう修正のしようがない。
一方、外出自粛や休業要請が出ても、なくならない案件がある。メディアに顔を出すことが仕事であり宣伝になる方々の取材は規模を最小限にして決行された。
先週、いとうせいこう氏との共著
「自由というサプリ 続・ラブという薬」(リトルモア)を上梓された精神科医・星野概念氏の取材があった。去年1月、仕事仲間・小野民さんがインタビュー執筆を担当した
記事で前書
「ラブという薬」を知り、心穏やかに暮らすための一助となるような本だぞとありがたく感じていたので、この取材依頼が某新聞社の記者・Sさんからもたらされたとき、嬉しくて思わず声が上ずってしまった。状況が状況だから余計に。
概念先生はいわゆる「医者」という職業から思い浮かべるビジュアルとはいい意味で程遠く(素敵なメガネ男子!)、この日は白衣ではなく私服だったことも手伝ってか気さくな雰囲気で、薄いカーテン越しに日射しが差し込む先生の周りは不思議とクリーム色がかって見えて、世間のピリピリムードとは別世界の趣きがあった。途中落語が好きだという流れからSさんが「武藤さんは
東京かわら版などで落語家さんの写真をよく撮っているんですよ」と紹介してくれたのがきっかけでわたしまで話に参加し出し、先生の雰囲気、Sさんのスマートな話運び、落語自体がもつコミュニケーション能力のおかげですっかり打ち解けてしまった。わたしはわたしなりに最近の状況に心が強張っていたのだと思う。いつまででも話を聴いていたかった。
きのうは落語家・春風亭昇太師匠の取材があった。カード会員誌のお城特集の取材で、以前師匠の独演会に行った際にサイン入りのご著書
「城あるきのススメ」(小学館)を購入し、並々ではない師匠の中世城郭愛に触れていたので、直にそのお話を聴くのが楽しみだった。
コロナ禍で叫ばれるようになったソーシャルディスタンスを確保してのマスクを着けたままのインタビューはやはり独特で、どことなく堅い雰囲気でスタートしたものの、師匠の話はあっという間に熱を放ち始め、中世城郭を讃える言葉が積み重なるうちにこちらもすっかりその気になり、諏訪原城や一乗谷に行ってみたい気満々になっていた。話すことを生業にしている方のしゃべりの渦にすっかり巻き込まれる幸せなひとときであった。
落語の興行が全て止まり他のロケもできないし・・・という状況もあるのだろう、取材にたくさんの時間を費やしていただいた。コロナ禍の中のせめてもの幸いと言うべきか。最初スタジオにいらしたときに「お久しぶりでございます」とご挨拶したら「おー、久しぶりだね」のリアクション、記憶していただいていたようで安堵した。
これでしばらく現場がなくなる。月並みではあるけれど、人に逢って写真を撮っていられることの尊さを次の現場までの間に何度も何度も嚙みしめるだろう。この状況下に在って心身ともに健やかでいることに心を尽くそうと思う。さて、そのためには飯だ、飯!